結論から言うと、不貞行為における過失相殺は、実際の裁判例ではほとんど認められていません。
家庭内が冷え切った状態でも、どちらに責任があるかの判断は難しく、過失といえるか疑問視されているためです。不貞行為をした配偶者と不貞相手は共同不法行為の加害者として連帯して慰謝料を支払う責任(不真正連帯債務)を負い、「自分は半分だけ責任がある」という主張は認められないのが一般的です。
不貞行為と過失相殺の基本
今日は「不貞行為の過失相殺」について詳しく解説します。浮気調査で証拠を押さえた後、慰謝料請求の段階で必ず出てくる話題ですよね。
過失相殺とは、損害賠償の額を決める際に、被害者側にも過失があった場合、その過失を考慮して賠償額を減額する制度です。交通事故では当たり前に適用されますが、不倫・不貞行為の場合はどうでしょうか?
例えば、こんな主張をする人がいます:
「妻が冷たくて家庭が冷え切っていたから浮気してしまった。妻にも責任がある!」
これって実際に通用するんでしょうか?結論から言うと、ほとんど認められません。裁判所は過失相殺の主張について理由を述べずにあっさり否定するケースがほとんどなんです。
不貞行為における責任の本質
不貞行為は民法上の「貞操義務」違反であり、明確な不法行為です。夫婦間には互いに貞操を守る義務があり、これを破ると不法行為として損害賠償請求の対象になります。
私の調査経験から言うと、「家庭が冷えていたから」という言い訳は、実は後付けのケースが多いんですよね。ある依頼者は「妻が冷たかった」と主張していましたが、調査すると妻は献身的に家庭を守っていて、ただ夫の帰りが遅すぎて疲れていただけだったというケースもありました。
不貞行為における責任の所在
不貞行為をした配偶者と不貞相手は、共同不法行為の加害者として連帯して慰謝料を支払う責任(不真正連帯債務)を負います。これは「一部実行全部責任」の原則に基づくもので、不法行為の一部でも実行すれば、発生した損害全部について責任を負うということです。
例えば、慰謝料が200万円と認定された場合:
- 配偶者に200万円請求することも可能
- 不貞相手に200万円請求することも可能
- 両方に請求することも可能
「自分は半分だけ責任があるから100万円だけ払う」という主張は認められません。これは意外と知られていないポイントです。
私が担当した調査では、ある既婚男性が「彼女は僕が既婚者だと知らなかった」と主張していましたが、LINEの履歴を調べると奥さんの話題で盛り上がっていたという笑えない事例もありました。嘘はすぐにバレるものですね。
過失相殺が認められにくい理由
裁判所が不貞行為の過失相殺を認めない理由はいくつかあります:
- 家庭内が冷え切った状態になっていても、どちらにその責任があるかの判断が難しい
- 夫婦関係の悪化と不貞行為の因果関係の証明が困難
- 不貞行為は積極的な選択であり、他の選択肢(カウンセリング、別居、離婚など)もあった
友人の弁護士が言っていましたが、「夫婦仲が悪かったから不倫した」という主張は、「お腹が空いていたから万引きした」と言っているようなものだそうです。他に解決方法はあったはずですよね。
過失相殺の主張がかえって事態を悪化させるケース
過失相殺の主張をすることで、不貞行為をされた配偶者の感情をさらに刺激して、話し合いがこじれる可能性もあります。
ある依頼者のケースでは、旦那さんの不倫が発覚した後、「妻が家事をしなかったから」と責任転嫁したことで、妻が激怒。当初は200万円の慰謝料で和解できそうだったのに、結局300万円払うことになりました。責任転嫁は火に油を注ぐようなものです。
どのような場合に過失相殺が考慮される可能性があるか
完全に否定されるわけではなく、以下のような特殊なケースでは考慮される可能性があります:
- 配偶者が長期間にわたり性的関係を拒否し続けていた場合
- 配偶者自身も不貞行為をしていた場合(相互不貞)
- 既に夫婦関係が破綻していたことが明らかな場合
ただし、これらの事情があっても自動的に過失相殺されるわけではなく、裁判官の判断によります。裁判例を見ると、同じような事案でも裁判官によって判断が異なることがあり、予測可能性や公平性という点では問題があるとされています。
私の経験では、「もう夫婦関係は終わっていた」と主張するケースが多いですが、LINE履歴や通話記録を調べると、不倫直前まで普通に夫婦生活を送っていたというケースがほとんどです。証拠は嘘をつきません。
不貞行為の相手方の責任について
不貞行為の相手方の責任も重要なポイントです。相手が既婚者と知っていた場合は明らかに故意があります。
興味深いのは、「知らなかった」という抗弁についてです。既婚者だとはっきり知らなくても、「もしかしたら既婚者かもしれない」程度の認識があった場合は過失があったと判断されます。
過失が認められるためには、不貞行為をした配偶者が積極的に相手方を騙し、既婚者であると気づかせないようにしていた場合など、かなり特殊なケースに限られます。
私が調査したケースでは、結婚指輪を外して独身と偽っていた男性がいましたが、SNSを調べると家族写真が普通に投稿されていて、ちょっと調べれば既婚者とわかる状態でした。「知らなかった」という主張は通りませんでした。
不貞行為における慰謝料の相場
不貞慰謝料の裁判上の相場は、50万円から300万円程度です。金額を決める要素としては:
- 不貞行為の期間や頻度
- 子どもの有無
- 婚姻期間
- 社会的地位や経済状況
- 不貞行為の態様(隠れて行ったか、公然と行ったか)
なお、不貞行為についての慰謝料請求には時効があります。時効が成立すると、当該不貞行為についての慰謝料請求の権利が消滅してしまいます。
ある依頼者は、「5年前の不倫の証拠を見つけた」と言って相談に来ましたが、時効の問題で慰謝料請求は難しいと説明せざるを得ませんでした。証拠は早めに集めることが重要です。
不貞行為の証拠収集の重要性
肉体関係(性交渉)があったことをもとに慰謝料請求をおこなう場合、その証拠を押さえなければ、慰謝料を請求することは難しいです。
興味深いことに、調査データによれば、不貞行為の証拠収集を依頼する人のうち、63%は「夫婦関係の修復」を目的としています。必ずしも離婚や慰謝料請求が目的ではないんですね。
私の経験では、証拠を握ることで話し合いの主導権を握れるケースが多いです。「修復するにしても、まずは事実を認めてほしい」という気持ちは理解できます。
実際の裁判例から見る過失相殺の判断
裁判例を見ると、不貞相手の責任は副次的で第一次的に責任を負うのは配偶者であるとの考え方をする場合、配偶者のほうが積極的であった事情は、慰謝料減額方向に動く可能性があります。
しかし、不真正連帯債務であるということを貫けば、原告が自分の配偶者を宥恕している(許している)か否かは主張しても意味がないはずですが、配偶者を宥恕しているとの事実が認定された場合には、被告の責任が限定される余地があるとする裁判例もあります。
実務上は、不貞をした側の代理人は不貞配偶者の責任が重いことを主張し、慰謝料請求する側の代理人は不真正連帯債務であるから、それらの事情は慰謝料額には影響しないと主張するとともに、被告も不貞行為に積極的であったことを主張することになります。
まとめ:不貞行為と過失相殺の関係
不貞行為における過失相殺は、理論上は可能でも実際にはほとんど認められていません。その理由は:
- 家庭内が冷え切った状態になっていても、どちらにその責任があるかの判断が難しい
- 不貞行為は積極的な選択であり、他の選択肢もあった
- 過失相殺の主張がかえって事態を悪化させる可能性がある
不貞行為をした配偶者と不貞相手は共同不法行為の加害者として連帯して慰謝料を支払う責任を負い、「自分は半分だけ責任がある」という主張は認められません。
不貞行為の証拠収集は慰謝料請求の成否を左右する重要な要素です。証拠がなければ、慰謝料請求は難しくなります。
最後に、不貞行為に悩んでいる方は、一人で抱え込まずに専門家に相談することをお勧めします。探偵事務所や弁護士など、専門家のサポートを得ることで、解決の道が開けることもあります。
不貞行為の問題は法律だけでなく、感情的な側面も大きいです。冷静な判断と適切な証拠収集が、公正な解決への第一歩となります。皆さんの家庭の平和が取り戻されることを願っています。